2015
05.07

『よもぎ草子-あなたはだれですか』

<迷走写真館>一枚の写真に目を凝らす 第28回

大竹昭子(おおたけ・あきこ)

燦々と陽の光がふりそそぐ路上にひとりでしゃがみ込んでいる人影がある。それが少女なのは一目でわかるし、まちがいようがないのだけれど、写真を見るたびに思い浮かぶのが老女の姿なのは、どうしたことだろう。

老人はよく路上で座りこむ。家にたどりつく前にくたびれ、立っていられなくなってぼうっとした顔でそこにいる。しかし、子供だってよくしゃがむし、老人よりもずっとたくさんそうするではないか。少女が老人の姿を連想させるのは、もっとほかの理由がありそうだ。

ピンと立った右手の薬指に光が当たっている。画面のなかでもっとも光を感じさせるのはここで、見ているうちに、影になって見えない人差し指のあいだに煙草が挟まれているような錯覚が生じた。口元に当てられている左手もまた喫煙のしぐさと結びつくし、加えてもうひとつ、彼女の背後にただようわずかな雲もたばこの煙を連想させなくもない。

この写真を見た瞬間に、炎天下の路上にしゃがみ込んで煙草を吸っている老女のイメージが、わたしのなかにまざまざと浮かび上がってきたのだった。その姿を無意識のうちに少女にダブらせていたとみえる。

そう考えてみると、老人と幼児はどこか似ているところがありはしないだろうか。

日々、同じ歩幅とリズムで役割を着々とこなしていく社会人とちがい、彼らは興味のあるものにはぐっと寄っていき、そうでないものには冷ややかだ。この物事への独特の距離感は、社会活動のまっただ中にいたときにはなりを潜ませていたものが露になっていくさまを感じさせる。人は人生の最初のときと最後のときに、その人の根底を流れるエキスにもどるのかもしれない。

「炎天下の路上にしゃがみ込んで煙草を吸っている老女」のイメージは、強い陽ざしと、路面のざらっとした感触と、右から伸びている黒い影によって増幅されている。

ある場所の記憶がよみがえってくる。あたりの景色の雑駁さや低層の陸屋根の建物なども、記憶の巻き戻しを助けているようだ。おばあさんが路上で煙草を吸うのに相応しい街路。それは沖縄でしかありえない。少女のノースリーブの腕越しに強い光を見上げる低いカメラアングルが、南の島の光景を引き寄せるのだ。

路上に身をなげだしてカメラを構える撮影者のからだは、太陽の直射を受けて熱くなっているだろう。頬や腕は焦げ、体の輪廓はあいまいになり、アスファルトと一体になっているだろう。この灼熱の光こそが、時間の感覚を奪ってしまう犯人なのだ。老女と少女は、そのとき、ひとつになる。

2015
05.01

下北沢の書店さん「B&B」にて、 5月23日(土)19時〜21時、

 『よもぎ草子―あなたはだれですか』の著者・ミーヨンさんと文芸評論家の若松英輔さんのトークイベント(対談)が開催されます。

おふたりともたいへん鋭い知性と豊かな感性の持ち主ですし、こんな異色の顔合わせはめったにないことですから、この機会をお見逃しなく。

「B&B」さんは、ドリンクを飲みながら参加できる本屋さんです。

当日はスライドショーも観れるようです。

お問い合わせは下記へ

http://bookandbeer.com/blog/event/20150523_yomogizoushi/

2015
03.27

雪と自販機が織り成す美しい光景を見事に捉えた 北海道出身の気鋭の写真家による珠玉の写真集! 人里離れた山間部や人影もない岬の突先に置かれた自販機に写真家は「メルシー」と呼びかけたくなった。もはや自販機のある風景は、この国を象徴するありふれた光景のひとつだが、こんなにも愛おしくみえる自販機はあるだろか。自販機に新しい光を当て た心温まる写真は、きっと人びとの心を虜にせずにはおかないだろ。

 

    ■A4判変形/総頁64頁 ■モノクロ/ハードカバー ■定価 本体: 3000円+税

 

2015
01.19
2014
11.11

春から夏にかけて道端や空地など至る所で見られるよもぎを定点観測した可愛いらしくも愛おしくなる心打つ写真集!
A4変形/タテ210ミリ×ヨコ210ミリ×厚9ミリ/総頁72頁/透明ビニールケース入/モノクロ ■定価 本体2800円+税 送料360円

ただし『Alone Together』と同時購入される場合は、送料は無料とさせていただきます。

よくとおる通学路沿いに、ある日、いっぽんの草が、ひょっこりと顔をだした。
梅雨にはいってまもないころで、草はすくすくそだち、見るたびに、成長していた。
わたしはその道を、まいにち、朝、夕、とおりながら、草の生長を見まもるのが、
日に日に、楽しみになっていった。
地中に根をはやし、自分ではいっぽも動けず、ずっとおなじ場所に生きている草は、
どんな風景を見ているのだろう、と思った。
カメラを、草の背丈にあわせ、地べたすれすれのところにかまえ、
ファインダーをのぞいてみた。
草は、正方形のファインダーのなかにおさまり、見られるなかで、見ていた。
その草の名は、ヒメムカシヨモギ。
その、ヒメムカシヨモギに出会ってからは、まわりにひっそりと自生する草たちの姿も、
目がとまるようになった。
梅雨から夏にかけて、わたしはそれらの小さな存在に出会うために、いくつもの道へと出かけていった。
しばらくして、ヒメムカシヨモギがたおれているのに気づいた。わたしは、そのありのままの姿を、撮りつづけた。
そして、ある朝、ヒメムカシヨモギは、跡形もなく消えていた。
短い間だったが、その草は、一生を全うし、わたしは、その生まれかわりを探すかのように、
いまもなお、いくつもの道で、さまざまなヒメムカシヨモギの姿に、目をうばわれる。
だれもしらない、わたしだけの記憶――その記憶は、ときに幻のようで、
あの暑かった夏の陽ざしのなかに溶けてしまいそうだが、密会のように続いた、ふたりの会話が、証拠のように、くっきりとフィルムに刻まれている。
ミーヨン

―収録「テキスト」より

2014
11.11

ミーヨン写真集

Alone Together

編集・構成=西山俊一[窓社]/ブックデザイン=高崎勝也[JDSグラフィック]

解説=大竹昭子[評論家]

同書はフランスの『in)(between. ShaShin Book Award 2014』を受賞し、ヨーロッパで注目されるところとなり、パリで写真展が開催されることになりました。

賞の詳細ならびに選評は下記にてご参照ください。

http://www.inbetweengallery.com/portfolio/inbetween-shashin-book-award-2014

http://whoneedsanotherphotoblog.wordpress.com/2014/10/19/shashin-book-award-gallery-inbetween/

本書は、ミーヨンさんのプライベート・レーベル(kayabooks)からの発行のため国内の書店での取り扱いは限られております。購読を希望される方は、窓社へメール(sales@mado.co.jp)か、FAX(03-3362-8642)へお申し込みいただければ、折り返し現物をお届けいたします。著者のサインを希望される場合は、その旨を書き添えてお申込みください。代金は、現物が届いてから同封の「郵便振替用紙」(振込手数料不要)にてお支払いただければ幸いです。なお『よもぎ草子』と一緒に御注文される場合は、送料は無料とさせていただきます。

A4版(縦350ミリ×横210ミリ×厚15ミリ)/64頁/ハードカバー/定価4500円+税(225円) 完全パック送料1冊につき520円(国内のみ)

総評 審査を終えてーソフィ・カヴァリエロ

147 ENTRIES IN TOTAL – 141 VALIDATED ENTRIES

Some key words by Sophie Cavaliero

総評 審査を終えてーソフィ・カヴァリエロ

応募作品141冊(審査対象総数)、予想を超える多くのエントリー作品の審査が終了しました。 審査を終えた私たちは未だこの間、高鳴り続けた胸の鼓動※、ときめきを止めることはできません。日本からはるばる届けられた141冊の写真集を手にした私たちは、それらすべてを目を凝らし見つめ、互いに議論を交わし、また何度も見直し、さらにまた議論を繰り返しました。 私たち審査員にとって、自分自身の目線と培ってきた感性と経験のすべてを注ぎ込むかのように、こうして3名の受賞者を選ぶことができたことは、喜び以外の何ものでもありません。膨大な写真集と向き合い、写真家ひとり一人とわたしたちひとり一人が対峙するセレクションの時間。それは互いの情熱とまなざしを分かち合う充実したひとときであり、何より、「日本の現代写真の今」に出会う美しい発見の連続でした。 受賞作品を選ぶ審査の話し合いはいつも、真剣な議論の中においても常に濃密な喜びにあふれ、そして何より心躍るような楽しさに満ちていました。

 最後に、私たちは、このアワードの発起人であり、このような素晴らしい機会を与えてくれた主催者 in)(between. galleryのLuigi、そして、このアワードの運営実施に関わる業務すべてを引き受け、万全にサポートしてくれたEmakoに心からの感謝と労いの言葉を捧げたいと思います。

<満場一致で決定した優秀賞、総評>

優秀賞3作品は、審査員全員の見解、評価が一致し、決定しました。数多くのエントリー作品の中でも、この3作品には、他とは何か違う強い意思というものが感じられたからです。 写真集とは、言うまでもなく、展示会のカタログでもなければポートフォリオでもありません。それは、見る者に明確な世界観を語りかけてくるものであり、鋭く本質をとらえながらもどこかしらユニークで、一度見たら忘れられない『何か』を持っているものでなくてはなりません。優秀賞に輝いた3名の作品には、まさにこれが写真集だというにふさわしい質とパワーがありました。 (ソフィ・カヴァリエロ)

【審査委員の選評】

 Molly BENN (モリー・ベン)「our age is 13」編集長、ライター

033 Mi-Yeon 「Alone Together」私はこの作品に悩ましいほど濃厚な共感を抱き、まるで催眠術にかかったかのように、めくるめく写真世界に没入させられました。作品全体の空気感(雰囲気)はこの上なくやさしく、柔らかく、私の意識の深いところを静かに揺らし続ける。 私は、この作品が語りかけてくるもののシンプルさやイメージの繊細さが好きです。

Sophie CAVALIERO (ソフィ・カヴァリエロ)作家・批評家・コンサルタント

033 Mi-Yeon 「Alone Together」その写真の中からあふれる優しさが見る者の心を捉えて放さない、非常に情感あふれる作品。イメージが非常に効果的で、理屈抜きに、自然に、私たちの心は、そこに漂う感情や美しさに満たされます。印刷、編集ともに非常にクオリティが高く、作者独自の世界観が見事に表現されています。

Josef CHLADEK(ジョセフ・シュラデック)「Virtual Bookshelf JC」編集者、Webプロデューサー

033 Mi-Yeon 「Alone Together」1枚1枚の写真イメージが非常に印象深く、写真集を手にしていることすら忘れるほど、その幻想的なイメージに引き込まれます。クラシックなモノクロの写真でつづられた孤独。それは、美しく、感動的です。

Xavier GAUTRUCHE(グザビエ・ゴトリュッシュ)フォトエージェント・フォトプロデューサー

033 Mi-Yeon 「Alone Together」彼女は、被写体の人たちをどのように撮るかということに心を砕いているわけではなく、被写体そのものを心象として自由に解き放ち、風景の中に溶け込ませ、ついにはまったく架空の世界に見せてしまう。私はその写真スタイル、彼女の視線にとりわけ好感を抱きました。美しい印刷とデリケートなレイアウトを持つこの大きなフォーマットの作品全体を通して、それぞれのイメージがお互い無関係であるようでいて、ひとりの若い感性の視線で貫かれているのです。

2014
11.07

2014年(第10回)受賞作品写真展が、2015年1月30日~2月5日 富士フィルムフォトサロン東京

2014年(第10回)受賞作品写真展が、2015年2月20日~26日   富士フィルムフォトサロン大阪

 

2014
07.01

マブイとは“魂”のことをいう。 西表島、石垣島など八重山諸島に魅了された 気鋭の写真家がついに捉えた美しくも不思議な世界。 これまでの写真集には見られない沖縄がここにある! 生と死が濃密に混ざり合う中で、この世界の表面に見えているものより、眼に見えない世界の方がどれくらい大きいのだろうと想う。果ての島々において、世界の成り立ちがプリミティブであればあるほど、際立ってくるものがある。普段意識することがないだけで、この世のいたる所に“向こう側”は口を開けている。静まり返った水面に映る森、来訪神が振り蒔く豊穣の鱗粉、紙銭から立ち上る炎のゆらめき・・・こちら側(この世)から、ぽっかり開いた窓の外には、向こう側(あの世)が広がる。それに触れるたび、自分の心が透くような感覚が訪れる。寂しいとも空しいとも違うその感覚、その根となるものを追い求めた。(本分収録テキストより)

 

A4変形版 (256ミリ×256ミリ) 総頁60頁/上製/モノクロ/定価2800円+税

2014
05.23

『写真に何ができるかー思考する七人の眼』の出版記念写真展

いよいよ今週の日曜日が最終日となります。この機会をお見逃しなく。

編者・福川芳郎氏によるトークイベント開催
5月25日(日) 午後2時~

  • 「デジタル革命第2ステージを迎えて」福川芳郎

デジタル化が進み、現代アートが市場を席巻している欧米のアート写真の最前線はどのようになっているか。また日本のアート写真界の現状を語る予定。
参加無料。20名程度。参加希望者は以下からお申込みください。
http://ws.formzu.net/fgen/S73986561/

2014
05.08

写真展用画像『写真に何ができるか』出版記念写真展

会場 インスタイル・フォトグラフィ・センター

東京都港区南麻布5-2-9

東京メトロ日比谷線 広尾駅下車 3番出口徒歩7分

2014年5月14日(水)~5月25日(日)

1:00PM~6:00PM/入場無料/月・火休館

2014年4月、新進気鋭の写真家七名による『写真に何ができるか――思考する七人の眼』が窓社から刊行されました。写真をアート作品として提示する場合、写真家が何を伝えたいかを自ら語ることが必要不可欠です。同書は、それぞれ異なる主題をもつ写真家たちが、作品とテキストによって自からのメッセージを世の中に発信することをめざしたヴィジュアル・メッセージ本です。本展は、同書の刊行を記念して6名の写真家のオリジナルプリントを見ていただき、同時に写真家と直接対話していただきながら、作品理解をより深めてもらう機会にしていただければと願って開催するものです。また、下記の日時で写真家を迎えてのギャラリートークも開催します。お誘い合わせのうえご来場いただければ幸いです。なお、会場で書籍もプリントもお買い求めいただけます。

【ギャラリートーク】

         517()  PM2:00~ 芦谷淳 & 福川芳郎

                     PM:300~ 三善チヒロ & 福川芳郎

         518()   PM2:00~ 幸田大地 & 福川芳郎

                    PM:300~ にのみやさをり & 福川芳郎

 

お問い合わせ 「写真に何ができるか」展 実行委員会 プリッツ内 TEL03-3714-0552